三環系抗うつ薬 2012-02-22

9-2 三環系抗うつ薬

9-2 三環系抗うつ薬

三環系抗うつ薬はかつて抗うつ薬治療の定番だった(表9.4)。しかし合衆国ではだんだん使われなくなり、若手精神科医にはなじみのないものだろう。

表9.4 よく使われる三環系抗うつ薬
イミプラミン 三級 最も古い三環系
アミトリプチリン 三級 非常に鎮静的
デシプラミン 二級 しばしばあまりに刺激的
             使用可能な中で最もノルアドレナリン作用
ノルトリプチリン 二級 最も認容性が高い
クロミプラミン 三級 最もセロトニン作用
              強迫性障害で効果的
ドクセピン 三級 最も抗ヒスタミン作用 非常に鎮静的

私はこのことを残念だと思う。メランコリアや治療抵抗性うつ病にはSRIsよりも三環系抗うつ薬が有効だという強い根拠を示した論文がいくつもあるからだ。治療抵抗性うつ病で三環系抗うつ薬を一つも試していないなら、治療として不十分だと思う。現在では単極性うつ病では新規抗うつ薬を何種類か試してみるのが普通だが、何年たっても、三環系抗うつ薬は一つも試していないこともある。これは患者がいやがっているのではなくて医師がいやがっているのだ。

私の経験では、いくつかの単純なルールに従えば処方しやすい。(表9.5)

表9.5 三環系抗うつ薬処方の一般ルール

1.三級アミン(たとえばアミトリプチリン)は代謝されて二級アミン(たとえばノルトリプチリン)になる。

2.二級アミンはノルエピネフリン再取り込みにより特異的で、より認容性が高い。

3.全ての三環系抗うつ薬は十分な効果を得るには200-300mg/日が必要である。ノルトリプチリンだけは例外。

4.ノルトリプチリンは最適治療血中濃度がある唯一の三環系抗うつ薬で50-150ng/dLである。

5.ノルトリプチリンは最も効果的で、最も認容性の高い三環系抗うつ薬であり、通常は第一選択薬としてベストである。

第一に、予備知識として、三級アミンと二級アミンの違いを学ぼう。アミトリプチリンやイミプラミンは三級アミンであり、それらの代謝産物であるノルトリプチリンやデシプラミンは二級アミンである。三級アミンはセロトニンとノルエピネフリンの再取り込みを阻害するが、二級アミンはより選択的でノルエピネフリンの再取り込みを阻害する。三級アミンはまた他のレセプター系の複数を阻害するが、そのことで副作用が起こる(表9.6)。二級アミンでは副作用は少ない。従ってときには三級アミンのほうが効果的である事もあるとしても、一般に、二級アミンのほうが認容性が高い。

表9.6 三級三環系抗うつ薬でよく見られるレセプターブロック作用

1.抗コリン作用 口渇、便秘
2.抗アドレナリン作用 鎮静、性機能障害、起立性低血圧
3.抗ヒスタミン作用 体重増加、鎮静

原則として三環系抗うつ薬を使うときには、二級アミンから始めるのが賢明である。三級アミンは最後の手段である。三級アミンは治療抵抗性うつ病に対して最高量まで使うと認容できないことが多い。ノルトリプチリン以外の三環系抗うつ薬はどれも、最適効果のためには200-300?/日まで使う必要があり、その場合副作用が出て、耐えられないことが多い。
ノリトリプチリンは三環系抗うつ薬で唯一最適血中濃度がある(50-150ng/mL、理想的には100ng/mL 表中ではng/dL。 調べるとμg/L)。
ノリトリプチリンの場合には早くぴったりの量に調整できる。二級アミンでもあり、私はノリトリプチリンを最も有効で認容性の高い三環系抗うつ薬と考えて好んで使う。

チップ
三環系抗うつ薬のなかでノリトリプチリンが最も認容性が高く最も容易に量の調整ができる。

全ての三環系抗うつ薬は心筋に対してキニジン様の作用をし、伝導障害を引き起こしまたは悪化させ、結果としてQT延長をきたす。極端なケースでは多形性心室頻拍(Torsade de Pointes)や心室頻拍となり、しばしば致命的である。これは使用量に関係しているので潜在的には三環系抗うつ薬の過量摂取は致命的である。一般ルールとして、三環系抗うつ薬を2週間以上処方すれば過量摂取して死に至る危険がある。

医師の中には三環系抗うつ薬の低用量は非うつ病性の適応症の場合、さほど有害ではないと考える人もいる。不眠に対してアミトリプチリン(Elavil)またはドクセピン(Sinequan)のような三級三環系抗うつ薬を少量処方する場合である。しかし三環系抗うつ薬のこの使用は不適切である。安全な治療がほかにたくさんあるからだ(たとえばトラゾドン)。鎮静を目的として三環系抗うつ薬を使うのは利益がない。少量であっても不整脈の可能性があるから、また特に高齢者や心臓疾患を基礎に持つ人では危険であるから、有害である。そのようなリスクに少しだけさらされるとしても、必要がないのであれば、大きすぎる被曝である。ま他、不眠に対して少量の三環系抗うつ薬を投与するのは多剤併用カクテル療法の4番目か5番目であることが多い。ほとんどすべてのケースで、患者は三環系抗うつ薬と多剤との併用で、鎮静やその他の副作用を経験している。一般に少量の三環系抗うつ薬は完全に取り去っても患者には何の危険もない。

私が強調したいのは治療抵抗性単極性うつ病には三環系抗うつ薬という最後の手段もあることだ。特にノルトリプチリンのような二級アミンを最高量まで使う。しかし一方で、不眠のような非うつ病性の適応に対して少量の三級三環系抗うつ薬を使うのはやめたほうがいいと強く勧めたい。

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