心の病と戦う-3 2008-6-27
技術者の勤務時間が他の業種に比べ長時間になりがちなことや、SI業務で客先に常駐するケースが多く、顧客先でのプレッシャーが自社内での仕事よりも大きくなりがちなこと、真面目に仕事に取り組むあまり、病状が悪化するまで対策を取らずじまいとなってしまうケースが多いことなど、技術者の心の病には課題が多い。
とはいえ、いったん病に侵されてしまうと、回復を目指して病気と闘わねばならない。うつ病について、「失われたエネルギーをためている時間」と表現する。つまり、うつ病になった時の対処法は「何もしないことだ」。何もしないことでエネルギーが徐々にたまり、回復に結びつくという。気晴らしに強い運動をする人もいるが、「それよりもゆっくり休養することで、自然にエネルギーをためてほしい」。
ただし、「うつ病になると極端に悲観的になったり、理想化した観念を抱いたり、自分を過小評価したりと、客観的な視点が失われることもある」と警告。そういった心のゆがみを精神科で治療するのだという。
「何もしない」–それはつまり休職を意味する。有給休暇さえまともに消化できない技術者が多い中、長期間に渡って休みを取ることをためらってしまう人も多いかもしれないが、無理をして仕事を続けても病状が悪化するだけだ。休職したとしても、「ほとんどの場合、復職できる」というのだから、無理をせずにエネルギーをためる時間を作ってほしい。
復職に向けて 休職中は、「十分期間を取って必要な量の薬を飲み、治療を続けながら様子を見る」というのが鉄則のようだ。復職のためのプログラムも用意しているという高橋氏のこころの会グループでは、復帰に向けたカウンセリングやグループミーティングも行っている。こうして徐々にエネルギーがたまったら、1カ月から半年程度で復職を考えるよう、勧めている。
「半年程度」と高橋氏が言うのは、半年休めばある程度の回復は見込めることからだ。休職期間が長引けば、復職の壁が高く感じてしまうこともあり、プレッシャーとなる可能性もある。投薬をやめる必要はなく、治療を続けつつ復職を目指してほしいとアドバイスする。
もちろん、復職後も無理をしてはいけない。復職直後のストレスは非常に大きいためだ。「まず、最初の3カ月程度は、半日もしくは通常勤務の3分の2程度の仕事量に抑え、無理のない復帰を試みるべき」。また、仕事内容も、できれば顧客と直接接する対クライアント案件はプレッシャーが高いため、最初は避けたほうが安全だとしている。
「プレッシャーの高い対クライアント案件」がIT業界に多いことは事実で、1回目の特集に登場した中井さんも、「SI企業は建設業界的な部分があり、プロジェクトでクライアント先に出ていると、周りの人はどこから派遣されているのかわからないような状況も多かった」と、混とんとした職場環境に不安をかき立てられたことを指摘している。
復帰後すぐに以前と全く同じ状況に戻ることは難しい。「復帰には時間がかかることを理解し、企業も復帰のための環境を整えるようにしなければ、同じことを繰り返してしまう。復職に失敗すると、患者が自信をなくしてしまうケースもあり、再度復職を望む際、医師としても診断書が書きにくい。復帰に失敗するのはわずかだが、それは企業側に理解のないケースが多い」と指摘する。
「IT業界は外資との競争も激しく、ゆとりのあるポストを設ける余裕はないかもしれないが、病状の回復には環境が大きく影響することを理解してほしい。例えば看護士などでも、心の病から復帰する際にはリネンの洗濯係などから始めることが多い。無理のないポストで復職の環境を提供することは、企業にとって大切な要素だろう」と話す。
技術者に「ゆとりのあるポスト」を期待することは難しいかもしれないが、企業側も、誰が発病してもおかしくない病気だということを理解し、対応を考えていくべきなのかもしれない。