刷り込み 強い学習 弱い学習 一生に一度の回路 また開く場合 山内教授 2008-5-24
PEY.
人間には一生に一度の強い学習から、
かなり強い学習、弱い学習まで、
いろいろなタイプの学習があります。
刷り込みは、人生の始まりに、そばにいて動くものを母親と思い、
行動を真似する回路のことですね。
imprinting.
強い学習は、子供の頃に立て続けに起こります。
一生記憶が続くような強い学習が起こります。
歳をとるとだんだん学習は弱くなっていきます。
これは、歳をとると脳の回路の変更がしにくくなるからですね。
しかし一方で脳の安定性にもつながっています。
不安定な人でも、40才くらいにもなれば、まずまず安定するものです。
もうひとつは、10歳くらいまでに環境に適応する作業を完成しておきたいからですね。
それからあとは性的成熟が始まります。
例えていえば、10歳くらいまでに、建物の一階部分ができます。
そのあとの性的成熟は二階部分です。
一階部分で、個体の生存には充分です。
二階部分で種としての生存を実現します。
子供時代に、環境を学び、脳の中にコピーを蓄えているのです。
だから、子供時代と大人時代で、根本的に原理の違う世界になったら、
とても不適応になります。
進学や就職で環境が変わるのが青年期ですから、
この時期にアイデンティティの危機があるわけです。
田舎で育った人が、田舎の環境のドーパミンレベルに適応した脳を持っていたとします。
それが都会に来て、刺激の多い状態になると、どうしてもドーパミンは過剰になります。
そしてその思春期に性的スパートが生じますから、
ドーパミンはどうしても不安定に、過剰になります。
だからその時期に、統合失調症が発生するわけです。
脳の回路形成には臨界期と呼ばれるものがあります。
その時期にいったん形成されれば、閉じられてしまいます。
確定されたものとして記録されてしまいます。
たとえば、よくいう、rとlの違いに反応する耳とか、
母音の聞き分けとか、そんなことです。
文法面に関しては、
生後の学習というよりも、脳の回路に生得的な根本文法があるようで、
それをもとにして言語を学習します。
だからそれは英語とか日本語、中国語の根本にある、
人間の共通文法のようなものです。
だから単語を並べただけで、買い物くらいは用が足りるわけです。
ソシュールみたいな話ですね。
言語は基本OSのようなものです。
その上にさらにいろいろな技能やコミュニケーションが組み立てられる。
この基本OSが一応ではあるが翻訳可能なのはやはり、
潜在的共通文法があるからでしょう。
そのようにしていったん脳の回路は完成します。
10歳の頃、人間は完成するのです。
満ち足りています。幸福です。
そしてそのあと、二階建て部分を作ります。
ここでは男女それぞれに苦難があります。
男性ホルモンと女性ホルモンでは違いがあります。
男性ホルモンは脳の回路をそのまま保持します。
逆に言えば、世界を脳に従って変えたいのです。
女性ホルモンは逆で、世界に合わせて自分を変えます。
妊娠出産に当たり、女性ホルモンが大量に出ます。
この時は実に世界が大幅に変わるわけです。
このときまで女性は自分が世界で一番可愛い存在でした。
しかし子供が生まれて秩序は変わります。
なにより、赤ん坊に肉体的に奉仕しなければなりません。
赤ん坊はまさに「未熟な適応機制」を用いてお母さんを徹底的に支配し操作しますから、
世界は大幅な変わりようです。
そこでこの世界の激変を受け入れられるのは女性ホルモンのおかげでしょう。
私のイメージでは、女性ホルモンは、10歳までに書き込まれて閉じられた、古い回路をもう一度開くのです。
そして新しい現実に合わせて、回路が再び調整され、書き込まれ、閉じられます。
これが妊娠出産育児という事態です。
何という大事業かと思います。
女性は二度、幼年時代を体験するのです。
それは子供とともに成長するからでもありますが、
女性ホルモンの急増が原因してもいるのです。
一生に一度の回路が、もう一度開かれて、閉じられる。
これはとても神秘的なことです。
このことによって、女性は、嫁ぎ先の世界にも適応し、子供を育てる生活に適応するわけです。
従順さという女性の指標もここから発生します。
古くは男性が捕虜になると、睾丸が摘除されました。男性ホルモンがない方が従順な労働力になるからです。環境に親しむのです。
このように表現してくれば、女性は環境に適応するだけの受け身な感じといっているように思うかもしれません。
そうでないことは明らかで、結局、家の中心になるのは母親であり、母親そのものが子供の環境になり、結局は家族全部の環境になるのです。
その圧倒的な支配力に耐え切れず、男性は空しく抵抗をしたりするわけです。
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以上、ひじように強い学習から、弱い学習まで、種類があること。
それは人生の時期によって臨界期があり、回路は閉じられること。
閉じられた回路も、女性ホルモンなどの事情によっては、再度開き、書きこまれること。
などを説明しました。
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さて、パニック障害は、強い学習の誤差動と言えないかということです。
パニック障害が学習される時、
何らかの事情によって、強い学習の回路が開いているのではないかと考えます。
そこに偶然「電車でのどきどき」が学習されてしまったのです。
どんなときに強い学習の回路が再度開くのでしょう。
多分、女性ホルモン、退行的状況、それに関連して、お酒、薬物などが関係すると思います。
簡単な話、月経前くらいに女性は不安定になることがあります。
それは不安定という言葉を使ってもいいのですが、
世界を受け入れて自分を変える準備があるということもできるのです。
世界にまったく無関心であれば、イライラする必要もないのです。