若年性認知症 2008-3-11
先日、「わたしは若年性認知症でしょうか」という女性がいて、
少し話を聞いた。
韓国映画「私の頭の中の消しゴム」を、
本人も見て、友人たちも見て、
自分は、「まるでわたしみたい」と思い、
友人らは「まるであなたみたいよ」と言ったという。
これは、若年性アルツハイマー病の20代の女性を描いたもの。
また、日本映画「明日の記憶」があり、もとになった小説もある。
こちらは、50代男性の若年性アルツハイマー病の発症とその後を描いたもの。
どちらも、記憶が根こそぎ消えてゆくので、怖い。
記憶がというより、自分が根こそぎ消えていく感じ。
そんなとき、パートナーに恵まれなかったら、どんなことになるか。
映画だから、どちらも、いい人たちに囲まれている。
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お勉強をすると、
18歳以降44歳までに発症するものを若年期認知症、
45歳以降65歳までに発症するものを初老期認知症、
ふたつをまとめて、通称、若年性認知症という。
認知症には、アルツハイマー病(AD)、脳血管性認知症(VaD)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、レビー小体型認知症(DLB)、その他があり、たとえば、プリオン病、皮質基底核変性症、アルコール症などがある。
ピック病は、前頭側頭葉変性症(FTLD)のひとつと考えられている。前方方認知症と呼ばれ、FTDである。側頭優位型ピック病は、意味性認知症。進行性非流暢性失語(PA)などがFTDとともに、FTLDとして総称される。
そもそも人間の最高次機能が失われるとき、人間の人間らしさが失われるだろうと考えられ、
その点では、前頭葉が障害される、ピックが、問題になる。
実際、性格変化などで、その人らしさが失われ、
記憶の問題はそのあとに明らかになることが多いような気がする。
高次脳機能障害としかいえないような異常は実際にあり、
性格障害でもなく、また、交通事故の後遺症や脳手術の後遺症でもないが、
高次機能が障害されている場合がある。
それらは、認知症とはせず、高次機能障害という枠で診断している。
44歳以前の症例については、各種の機能を総合して考えて、やはり、認知症というよりは、
高次機能障害と呼ぶことがふさわしいような気がしている。
慎重に検討すれば、障害の本質は、広汎でない印象を受ける。
しかしこれについては、ADの場合、若年性だと、記憶全般よりもむしろ、
病巣の局在性が目立つ場合があり、focal variants と呼ぶ。
それを、神経障害とか、自律神経失調症とか、診断していないか、反省が必要である。
最初のうちはなかなか分からず、
MRIでも、明確に変化を指摘できないことも多い。
それぞれが若年性にも発症するが、その頻度については、確かな統計がない。
死亡後に脳を顕微鏡で見なければ確定できないもので、
統計を検証するにも時間がかかる。
さらに、最近は、疾患の再分化や、概念の組換えが起こり、
各統計数字には大きなばらつきがある。
一例を示すと、AD 38,FTLD 20,VaD 14,DLB 1,その他27,である。
その人は、海馬の萎縮を気にしていたが、
若年性ADとしても、海馬の萎縮よりも、側頭・頭頂部移行部の萎縮が強いようで、
したがって、記憶は保持され、言語能力と集中力に問題が出るようである。
注意集中困難である場合、日常の中で、
自分が何を目的に行動を起こしたのか忘れてしまい、
目に映るものに次々に注意が移行することがある。
これは病的な場合もあるし、マイルドで正常範囲である場合もあり、
さらに、疲労時にも見られる現象である。
これだけを指標にすることはできない。
注意の集中に問題があれば、当然その間の記憶は不安定になるわけで、
想起の問題なのか、注意の問題なのかと分けて考えると、
若い人の場合には、注意の障害のほうが多いような気がする。
うつ病の場合にも、注意集中の困難が起こる。
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この人の場合、小学生の頃、担任の先生に「君は海馬が悪いんだ」といわれて、
かなりショックを受け、いまだに気にしている。
暗記物はずっと不得意。でも、立派な大学を出て、すごい職業で、年収もすごい。
風呂に入っていて、シャンプーをしたかどうか忘れてしまい、
面倒だからも一度シャンプーするとか、やっぱり変ですよねという。
一番気になること。
みんなで話していて、あのときの旅行はひどかったねーなんて話していて、
なにそれ、みんないつ行ったの?
などといって驚かれ、そのときの写真を見せられて、自分が映っていて、二度驚き、
そういえばそういうこともあったかも、などと思う。
これは、お年寄りが、食事をしたことをすっかり忘れてしまい、
わたしは食事も食べさせてもらえないと怒っているのに似ているのではないかと言う。
最近は物忘れも度を越していて、書類を忘れたりする。
デジャビュもある。道を走っていて、あれ、これはなんだか見覚えがある、
夢の中で走っていた道だ、などと思う。
結構夢を見るほうだ。
でもこの場合、本当に走った経験があり、いつものように忘れているのかもしれない。
それを、なんとなく走ったことがあるなあと思っているのかもしれない。
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まあ、そんなことを言いながらも、元気に毎日を暮らしているようで、問題はない。
最近は覚えておかなくても、コンピュータがあれば仕事はできる。
漢字も固有名詞も、コンピュータを叩けばすぐに出てくる。
旅行を忘れているのは、あまりにたくさん旅行に行ったからで、
わたしのように25年前に行ったのが最後だとなれば、忘れようもない。
シャンプーは疲れている時にそうなるので、やや過労気味、
または何か気になることがあって、そちらに気をとられている結果だろう。
シャンプーを二回しても、特に害はない。
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若年性認知症の問題として、
1.「うつ」「ちょっとした性格障害」と診断されたまま、放置されることがある。
2.退職になるまで、職場の配慮が必要である。できれば軽作業で就業を維持したい。何もしないでいると、廃用性の変化も加わってしまう。
3.退職になった場合、収入の問題がある。障害年金を受給する。生命保険の高度障害認定を受ける。
生命保険の高度障害認定とは、寝たきりや植物状態、絶対に回復が見込めない疾患の場合に、死亡に準じて保険金が支払われるもの。若年性認知症の場合、身体が健康である場合があり、認知機能障害が重篤でも、それなりに制限されつつも日常を生きている。その場合に、保険会社が支払いをするかどうかであるが、会社が支払いをしない場合には、逆に掛け金を支払い続けなければならず、結局解約したりする。
4.攻撃性、徘徊、性格変化が目立つ場合には、家族が疲弊する。
5.サラリーマンの場合には、ミスが連発して、会社から医療機関受診を促される。自営業の場合には、「また出たよ」くらいで、迷惑に思われながら、経過してしまうこともある。オーナー社長さんは注意が必要である。お山の大将が認知症になっていた場合、対策が遅れることが多い。
6.性格変化が背景にある場合、たとえば警察沙汰になり、結果として退職となった場合、退職金も年金も危ないことになる。それが病気のせいだと証明できれば、退職金、年金は確保され、さらに、退職も撤回されるかもしれない。しかし、休職期間にも限りがあるので、満了した場合には、退職となる。
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こんな具合なので、
会社から受診命令が出ない程度であれば、経過を見てよい。
また、小学生の頃からの暗期苦手は、たくさんのことに興味があり、
覚えていられないということだろう。
九九を覚えられたし、英語も覚えられたのだから、問題ない。
第一、小学生の頃からある、認知の障害は、若年性認知症とは言わず、
知能発達遅滞と呼ぶ。IQ測定で、でこぼこのある、折れ線になるはずである。
また、社会性能力が優れていれば、
記憶の喪失に関しても、周囲の協力を引き出すこともできるし、
度忘れがあったとしても、何とか処置できる。
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なかなか難しいが、歳をとるにつれて、いずれ、誰もが、可能性を検討しなければならなくなるだろう。
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たとえばブログで汚言症を反復している人、
忘れているのかしらないが同じことばかり繰り返している人、
まったく社会性にかける人、
などをそれぞれ見ることができる。
しかしそれも、病気と判定するものでもなく、その人の生きている環境との相関物である。
同じことを言わなければならない理由があるのかもしれない。
ブログにしか自己表現の場がないのかもしれない。
あるいは、ブログで演じているのかもしれない。
一貫して演じられているならば、高度な知能である。
ある種の生活をしていると、廃用性成分が混入することはさけられない。
その分も考慮しないといけない。