ディスチミア(Dysthymia, 気分変調症)親和型うつ病–新型うつ病1 2009-1-13
ディスチミア親和型うつ病
ディスチミア Dysthymia は 気分変調症。
ICD10では F34 持続性気分[感情]障害 の中に分類されていて、
正式の訳語が、気分変調症。
thymie とは気分のこと。それが dys ということで、不調だということ。
気分不調のほうがいいと思うが、どうだろう。変調というと、上に上がることもありそうな印象を受ける。
ずっと下がりっぱなしだけれど、うつ病というほどでもない。慢性軽うつ症の状態。
ディスサイミアでも可。
少なくとも数年続く、慢性のうつ状態であるが、他のうつ病系の診断は満たさないものをいう。2年以上と区切る場合もある。
DSMでは以下のような定義になっている。
気分変調性障害(気分変調症) | ||
A | 抑うつ気分がほとんど1日中存在し、それのない日よりもある日のほうが多く、患者自身の言明または他者の観察によって示され、少なくとも2年間続いている。 | |
B | 抑うつのあいだ、以下のうち2つ、またはそれ以上が存在すること。 | |
1 | 食欲減退、または過食。 | |
2 | 不眠、または過眠。 | |
3 | 気力の低下、または疲労。 | |
4 | 自尊心の低下。 | |
5 | 集中力の低下、または決断困難。 | |
6 | 絶望感。 | |
C | この障害の2年の期間中(小児や青年については1年間)、1度に2ヶ月を超える期間、基準AおよびBの症状がなかったことはない。 | |
D | この障害の最初の2年間は(小児や青年については1年間)、大うつ病エピソードが存在したことがない。すなわち、障害は慢性の大うつ病性障害または大うつ病性障害、部分寛解ではうまく説明されない。 | |
ただし、気分変調性障害が発現する前に完全寛解しているならば(2ヶ月間、著明な徴候や症状がない)、以前に大うつ病エピソードがあってもよい。さらに、気分変調性障害の最初の2年間(小児や青年については1年間)の後、大うつ病性障害のエピソードが重複していることもあり、この場合、大うつ病エピソードの基準を満たしていれば、両方の診断が与えられる。 | ||
E | 躁病エピソード、混合性エピソード、あるいは軽躁病エピソードがあったことはなく、また気分循環性障害の基準を満たしたこともない。 | |
F | 障害は、精神分裂病や妄想性障害のような慢性の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。 | |
G | 症状は物質(例えば、乱用薬物、投薬)の直接的な生理学的作用や、一般身体疾患(例えば、甲状腺機能低下症)によるものではない。 | |
H | 症状は臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。 | |
要するに、「気分変調性障害」(気分変調症)というのは、「大うつ病性障害の診断基準を満たすほど重くはないが、病的なうつ状態が長く続いている」ということ。 | ||
この「気分変調性障害」は、以前「抑うつ神経症」とか「神経性抑うつ」などと呼ばれていた状態に近い。 |
以上は気分変調性障害の
おさらいでした。
*****
さて、
「ディスチミア親和型うつ病」は、「メランコリー親和型うつ病」と対比して、
新型うつ病のひとつのタイプを表現する用語。
うつ病概念の拡張と言えるだろう。
通常「うつ病」の基本性格といえば、「メランコリー親和型」、「執着気質」また「循環気質」をさした。
まじめで、几帳面、仕事熱心で、責任感が強い、集団との一体感が強い。
このタイプの人が長く続くストレスに耐えられなくなり、
発病するのが「うつ病」であり、「躁うつ病」である。
(躁うつ病はちょっと違う面もある。また、
「うつ病」についても、この面ばかり描写していいのか、議論もある。)
「うつ病」は中高年に多く見られる。「躁うつ病」は比較的早く発症する。
これに対し、「ディスチミア親和型うつ病」は、若者に見られる。
従来の「うつ病」よりは概して軽症である。 しかし、完治は難しい。
特徴を言えば、他罰的で逃避的。
会社よりも自分が大事。仕事よりもプライベートが大事。
集団との一体化は希薄。
学校と会社の段差につまずいている。会社は意外に厳しかった。
休職をためらわず、むしろ、休職の診断書を要求する。
会社ばっかり大事って言ってちゃダメよ、と育てられた。
しかし現実には、会社第一でないと、とてもじゃないが
やっていけなかったのだった。
年代は10代後半から30代が多い。むしろ、入社してすぐが多い。
社会のルールをストレスと感じる、既成の秩序を否定する気分が強い。
これは別に悪いことではないけれど、会社になじむには、問題となる。
当然の結果として、仕事熱心ではないことになる。
それだけではなく、元々やる気がなく、熱心に何かを取り組んだこともないし、
それで誉められたとか認められたという経験を持たない人が多いといわれる。
しかし、中には学生時代にとても活躍した人もいて、
そのような人たちはまた別の病理なのか、考えなくてはならないだろう。
何となく就職し、仕事のノルマや上司との関係など、
規則や慣習やしきたりでがんじがらめの社会に直面する。
壁にぶつかったと感じてうつ状態になる。
主な訴えは「やる気が出ない」。
反省するよりも、他人を非難することが多い。
自分で本を読んだりして「うつ病みたいだから治してください」と受診してきて、
診断書を「××の期間で書いてき下さい」といって休職を希望したりする。
どうしてその期間なの?と聞くと、妻もそのくらい休んだから僕も、などと言う。
偉い先生はこのあたりでとても驚く。
抗うつ薬は効きにくい。
慢性化することも多い。
治療は、物事が思うとおりにいかないのは「うつ病」のせいではなく、
未熟な人格に問題があるのだと気づくことが必要、と、偉い先生に言われたりする。
こう書いてくると、とんでもなくわがままな未熟な人との印象を持ってしまうが、
そうでもないところもある。
一方の観察として、自分勝手で、気ままで、、いい加減ということではなくて、
自分の内面の秩序や習慣には頑固に固執するとの観察もある。
社会や所属集団に忠実ではないけれど、
自分には忠実なわけだ。
「何に」のところはおいておいて、
この「頑固で固執する」ところはやはり「うつ病」の特徴だろうと考えて、
新型うつ病のひとつだと考えているわけだ。
このような話で難しいのは、
新型うつ病の中でも、どのタイプを取り上げているのか、
限定しきれない部分があるからで、
ディスチミア親和型と一応名前をつけていても、
微妙に違うタイプをまぜこぜにしている可能性がある。
結果として、記述に混乱が生じる。
このあたりの事情を表にまとめたものを二つ紹介。
元は同じなのに、
微妙に違っているのが分かる。
ネットって信用できないでしょう?
追記
「ダブルデプレッション」という言葉があり、
丸善「こころの辞典」で紹介しておいた。
気分変調症が根底にある人に、大うつ病のエピソードが起こった場合をいう。
DSMでは両方の診断が与えられる。
本来、気分変調症と大うつ病は異なるものと考えられているのだが、
気分変調症のひとに大うつ病が起こることもあり、
それをどのように解釈するか、問題がある。
ダブルデプレッションという言い方自体は、
ディスチミア親和型うつ病のような、特有の性格とか経過とかを含んだものではないが、
定義自体としては似たような病態をとらえていると考えられる。
新型うつ病全般について、あるいは独自の理論については、
http://shinbashi-ssn.blog.so-net.ne.jp/2008-05-11-1
にまとめてある。
たとえば
http://shinbashi-ssn.blog.so-net.ne.jp/2008-05-28-3
そのほか、右側の検索ボックスに
ディスチミア、Dysthymia, 気分変調症、新型うつ病、などをいれて検索すればいろいろと参考部分が出てくる。
表1
逃避型抑うつと退却神経症の相違点
逃避型抑うつ | 退却神経症 |
①選択的抑制 | 選択的退却 |
②軽躁状態ありうる | なし |
③抗うつ薬の効果あり | なし |
④日内変動あり | なし |
⑤ヒステリー症状あり | なし? |
⑥優位な状況でのリーダーシップ | なし |
⑦女性との結びつき強い | 希薄 |
⑧熱中の時期あり | 凝り性 |
⑧弱力性ヒステリー性格,自己愛的 | 強迫的,分裂気質的 |
⑩20歳代後半~30歳代 | 20歳前後 |
表2 | ||
ディスチミア親和型うつ病および逃避型抑うつの対比 | ||
ディスチミア親和型うつ病(樽味ら 2005) | 逃避型抑うつ(広瀬 1977) | |
年齢層 | 青年層 | 30歳前後 |
関連する病態 | student apathy(Walters)退却傾向(笠原)と無気力 | 非定型うつ病 |
病前性格 | 自己自身(役割ぬき)への愛着 | 弱力性のヒステリー性格 |
規範に対して「ストレス」であると抵抗する | 自己愛的傾向 | |
秩序への否定的感情と漠然とした万能感 | ||
もともと仕事熱心ではない | ||
症候学的特徴 | 不全感と倦怠 | 選択的抑制 |
回避と他罰的感情(他者への非難) | 出社に際し不安,恐怖症状 | |
衝動的な自傷,一方で“軽やかな”自殺企図 | ||
治療関係と経過 | 初期から「うつ病」の診断に協力的 | 初期は病識が乏しい |
その後も「うつ症状」の存在確認に終始しがちとなり「うつの文脈」からの離脱が困難,慢性化 | 入院後は模範患者になる | |
薬物への反応 | 多くは部分的効果にとどまる(病み終えない) | 初期は比較的良好 |
認知と行動特性 | どこまでが「生き方」でどこからが「症状経過」か不分明「(単なる)私」から「うつの私」で固着し,新たな文脈が形成されにくい | 連休後に欠勤しやすい 女性との強い結びつき 拒絶への過敏 |
予後と環境変化 | 休養と服薬のみではしばしば慢性化する | 理解ある上司の下では好調となる可能性, 全体的には不良 |
置かれた場・環境の変化で急速に改善することがある |