16-2-3 効果
この本の第一版では、私は熱心にラモトリギンの利益を賞賛し、双極性障害の予防にも効き、急性双極性うつ病とラピッド・サイクリングにも効くという報告を紹介した。
最近になって、製薬会社に対する法律的アクションがいくつかあり、多くの薬剤に対する否定的な研究結果が出版されないか、または、薬剤の有効性に関する過大なほどの肯定的なイメージができあがるまで発表を遅延されていたことが明らかになった。
私が思うには、ラモトリギンでも同じ事情だったらしい。
素晴らしいことに、製薬会社は(双極性障害の薬剤を販売している他の多数の会社とは違って)ウェブサイトに全ての否定的データを公開している(www.gsk.com)。
読者は次のようなエビデンスを入手できる。
1.双極性障害における気分エピソードの予防の研究が二つあり、その二つで、ラモトリギンは有効であった。
2.急性躁病についての研究が二つあり、その二つで、ラモトリギンは無効であった。
3.急性単極性大うつ病についての研究が3つあり、その3つで、ラモトリギンは無効であった。
4.急性双極性うつ病について5つの研究があり、その5つで、ラモトリギンは無効。
5.ラピッド・サイクリングでは5つの研究があり、その5つで、無効。
これらの研究のほとんどすべてが出版されなかったか、あるいは、他の研究に付随して要約が部分的にだけ出版されるかしたものである。
肯定的な結果として出版されているのは二次分析に基づいているもので、一次分析では結果は否定的なのである。
つまりこの結果の意味するところは、主分析ではこの薬剤はプラセボと同じ、そして特殊な集団に対して後日分析をすれば、ときどきいくらかの利益があったというものである。
こうした特殊集団に関しての追試では、利益は再現できなかった。
(つまり、ひとつの研究で双極Ⅱ型のラピッド・サイクリング群に関してのおそらく利益という結果は追試で再現できなかった。)
全般に、ラモトリギンは有効で多くの患者にとってとても助けになると私は思うが、しかし、真実の肯定的利益を売り込む効果もあるとはいえ、否定的データを加工することは、結果として、医師が薬剤の効果に関して過剰に好意的な印象を抱くことになるだろう。
ここで私はこの薬が全然ダメと言っているのではない。私はこの薬の予防効果については確信している。
しかしデータから見れば、ラモトリギンは急性気分エピソードには効果がなく、ラピッド・サイクリング双極障害を改善することはないと強く言える。
(ラピッド・サイクリングについては驚きには当たらない。抗うつ薬を中止する以外に手立てはない。)
またたとえば、ラモトリギンは急速増量ができないのだから、たとえば急性うつ病に対する2ヶ月の研究で効果を証明するのは難しいだろうという議論がある。
確かにそうだろうが、急性うつ病(または躁病でもラピッド・サイクリングでも)に有効だと証明されていないことも事実だろう。
こんな場合にはホームズのルール(5章)を適用して、全ての薬剤は無害と証明されるまでは有害と推定すべきである。
ラモトリギンは急性期効果については証明がないのだから、使用も留保しようということだ。
以上が悪いニュースである。ここからよいニュースを検証してみよう。
ラモトリギンには予防効果があるが、躁病についてよりもうつ病についてなお強くそう言えるかもしれない。
これは維持療法に関しての2つの研究から言えることなのだけれども、しばしば誤解があって、それはこの同じ2つの研究が、ラモトリギンはうつ病の予防においてリチウムよりも効果的であると証明したとの誤解である。
(また逆もあって、リチウムは躁病の予防でラモトリギンにまさるというのも誤解である。)
これは半ば正しく半ば正しくない。
これらの研究は「enriched」だということを心に留めておこう。
無作為維持試験に入る「前」に、最初にラモトリギンに反応した患者だけを対象としている。
これではリチウムと公平な比較はできない。
(公平な比較をするためには、研究登録の半分の患者は、研究前に最初にリチウムに反応したことを根拠として、選ばれる必要があったはずだろう)
つまり、急性気分症状のときのラモトリギン反応者では、うつ病の予防においてリチウムよりもラモトリギンが有効であったと言えるということになる。
しかし、一般に、うつ病予防ではリチウムよりもラモトリギンが有効だとは言えないだろう。
対照的に、ラモトリギン反応者として最初に予備選抜されたにもかかわらず、躁病予防でリチウムの方が有効だという事実は、躁病予防ではリチウムがラモトリギンよりも明確に有効であると、確実に証明している。
こんなわけで、リチウムを「上がったとき」の気分安定薬(抗うつ薬よりも抗躁病薬)、ラモトリギンを「下がったとき」の気分安定薬(抗躁病薬よりも抗うつ薬)と呼ぶことがある。
しかし、うつ病予防でラモトリギンがリチウムより有効であるかどうかははっきりしない。
——キーポイント————————
多くの否定的研究があるのだが、ラモトリギンの効果の範囲はときに大げさに言われている。ラモトリギンの維持効果は別として、急性気分エピソード(躁病であってもうつ病であっても)とラピッド・サイクリングには無効である。
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まとめると、ラモトリギンは有効である、しかし多くの新しい薬剤と同様に、現実よりも大きく誇大広告されている。
有効なところで使えば有用であるし、そうでなければ役に立たないというだけのことだ。