「看護師に添い寝を強要する」「大部屋で同室の人の迷惑になる行為を平気でする」「治療のために絶飲食にするよう説明しても『おれは食べたいものを食べる。おれは客でおまえらはサービス業だから、客のいうことを聞け』と従わない」-医療現場で患者が身勝手な要求
これを「ミーイズム」と表現している。自己中心主義。ジコチュー。
「どういう応対をしているんだ!」。閉店時間間際の神奈川県内の大型スーパー。食品売り場のレジ前で、40歳前後の男性客が大声を張り上げた。
きっかけは傍目にはささいなことだった。会計待ちの列に並んでいる途中、客をさばいた別のレジの店員が、すぐに「こちらへどうぞ」と案内しなかったのだ。急ぐがゆえの叱責だったはずが、男性の怒りはいっこうに収まらない。店の責任者を呼び出すように告げ、店員10人ほどを横一列に並ばせて、怒りをはき出した。店のスタッフは1時間以上にわたってひたすら頭を下げ続けた。
トラブル処理にあたった社員は「応対に落ち度があったのは事実。だが、突然、あまりのけんまくで長時間怒鳴られたため、店員はかなりショックを受けていた」と打ち明ける。
東京都内の飲食店。中高年の男性客が、勘違いから予約の1時間以上前に訪れた。店はまだ準備を始める前。フロント近くの待合席でしばらく待ってもらうよう告げると、「予約しているのになぜ通せない」と言ってテーブルを拳で叩きながら怒鳴り始めた。女性店員(30)は「一方的に自分の都合を押しつけるばかりで、開店前だという事情など全く聞く耳を持ってくれなかった…」。
税務署の窓口で女性職員を怒鳴りつけ、平身低頭のスーパーの店員に延々大声を張り上げる-。ときに自分勝手にも思える言動を繰り出し、周囲と摩擦を引き起こす…そんな「新老人」の登場を書いた作家、藤原智美さんの『暴走老人!』(文芸春秋)。話題作になった。
東京・高田馬場の日本心理相談研究所。所長で、心理コンサルタントの河田俊男さんが中高年層を中心にキレやすい大人が増えてきたと感じるのはここ10年。雇用の先行きに不透明感が漂い、情報ツールが急速に普及した時期と重なる。河田さんは「メールなどで即座に回答を求められる機会が増え、仕事の評価も成果主義に変わる。ストレスが蓄積しやすくなる一方で、会社には余裕がなくなり、発散する機会は減っている」と指摘、職場などでため込んだストレスを公共空間で爆発させる構図を浮かべる。
サービスを受ける消費者の権利意識の高まり、身体的な問題…キレる原因は多分に複合的だ。作家の藤原さんは、日常生活を送る地域社会で、見知らぬ人に感情を爆発させる高齢者が多いことに着目する。「勝手な行動を抑止する役目も果たしてきた地域コミュニティーは崩壊寸前。歯止めがなくなり、エゴが露出しやすくなっている」(海老沢類)
言ったもの勝ち、やったもの勝ちの風潮がはびこる現代社会。兵庫県のある小学校では、こんなエピソードもある。中学受験を控えた6年生の親が「うちの子は塾通いで疲れているので、授業中は寝かせておいて」などと“注文”をつけてきた。「それは間違っている」という教諭の言葉は無視し、ついには「学校の勉強は試験に関係ないから」と子供を通学させなくなったという。
「うちの子は箱入り娘で育てたいから、誰ともけんかしないように念書を書け」(保育園)
「成績が下がったのは授業が悪いせいだ」(中学校)
「運動場でけがをしたのは誰かに押されたせいだ。うちの子は転ばない」(小学校)
自分の子供のことしか考えず、ほかのことはどうでもいいという発想がある。小野田教授は、そんな考え方を「自己中心主義」ならぬ「自子中心主義」と呼んでいる。
「自子中心主義」が蔓延(まんえん)する背景には親の不安が隠されている、と小野田教授は指摘する。すなわち、仕事に追われてストレスを抱えている、少子化で「育児を失敗できない」プレッシャーを受け続けるなどの親の姿が浮かんでくるのだ。
良識を逸脱した言動に対して、トラブルを避けるために過剰防衛したり、看過したりすることで、社会全体がおかしくなってくる。そのツケは、子供たちにたまる。子供もはけ口が必要になり、陰湿ないじめなどにつながっていく
飼い犬、飼い猫を繰り返し保健所や動物愛護施設へ捨てに来る“リピーター”がいる。犬・猫の殺処分数は年々減少傾向にあるにもかかわらず、ペットの命をないがしろにする身勝手な飼い主は目立ってきている。
「去年も持ってきたじゃないですか。避妊手術をしてくださいと、あれほどお願いしたじゃないですか!」
しかし、男性は平然とうそぶいた。「自然のままに育てるのが私の主義なんだ。傷つけるなんて、かわいそうじゃないか」
「避妊費用がもったいない」「病気や老衰で介護できない」「飽きた」「鳴き声がうるさいと近所に怒られた」など、身勝手な理由を並べる人が少なくない。
日本では子供の数よりもペットの数の方がはるかに多い。そして、“ブーム犬”という現象は日本だけのものだという。
「自分勝手な飼い主たちと、それに乗じた一部の悪質なブリーダーのせいで、動物たちがひどい目に遭っています。死ぬまで面倒をみる覚悟があるのか、動物を飼える環境にいるのか、そういう“当たり前”のことを動物を飼う前にきちんと考えてほしい」
「ウチでは普段から、みんな自由にさせている。だから、起きるのも食べるのもバラバラです」(50歳主婦)
岩村室長は「今の社会は『誰かや何かの犠牲になるのはいけないこと』という共通認識がある。そのうえ、無理や我慢をしてストレスをためるのは『体に悪い』。だから、おせち料理が面倒なら作らないし、子供たちも食べたくなければ食べなくていい。それが当たり前になった」と話す。
家族の間でも、いや家族だからこそ、面倒な衝突や努力を避け、互いに負荷をかけない生活をするという暗黙の了解が成り立っているようだ。
東京・原宿にある「占いの館」。今の仕事を辞めて、好きな写真の世界に飛び込むべきか悩む千葉県の女性会社員(23)は、約30分の相談を終えて満足そうだ。「私の思っていた通りのことをいってもらえた。背中を押されたようで元気が出ました」
だが、実の両親には、この悩みは話さない。「家族は私のことに深入りしてこない。『自分の好きなようにやれば』という感じなのですから」とつぶやいた。
二十数年にわたり、タロットや手相などの占いをしている菅野鈴子さんは「原宿の母」の愛称で親しまれる。その言葉通り、母親のような気持ちで『幸せになってほしい』と占う。最近は女性だけではなく男性客も多い。
世間は安易な癒やしにあふれている。“気”の流れを良くするマッサージや前世占いなど、軽いノリでスピリチュアルブームが広がっている。流行歌でもナンバーワンよりもオンリーワンをたたえ、そのままの自分を大切にすることが良しとされる。
昨年創刊した女性向けのスピリチュアル雑誌「Sundari(スンダリ)」編集部の森田紀子さんは「生き方に選択肢がありすぎて迷っている女性が多い。いろんなことを求めても誰からも批判されない状況でもあるがゆえに、逆に迷いも多くなる」とする。
仕事で失敗したときや恋愛で迷ったとき、自分である程度答えは出ていても、最後の決断をするときに、雑誌の占いを見たり、スピリチュアルなものに触れて勇気づけられたり、癒やされたりするのだという。
一方、家族問題に詳しい聖徳大学の岡堂哲雄教授(臨床心理学)のもとに、最近「この子、何か変なんです」と子供を連れてくる親が増えたという。まるで評論家かなにかのように10代の子供を“分析”し、面倒を避けるように早々に来所する。
岡堂教授は「子供がつらそうな顔をしていたら、いち早く気づいて、当たり障りない話をしながら、つらかったことを聞き出して心を癒やすのが家族の役割。ところが、そういったエネルギーを使いたがらない親がいる」と嘆く。
子供と向き合わない親の姿勢が、極端な形で表面化するのが、ネグレクト(育児の怠慢及び拒否)だ。平成18年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談件数は3万7000件にのぼり、児童虐待防止法施行前の11年度の約3倍、統計をとり始めた2年度の約34倍と年々増加。特にネグレクトの増加が著しい。
18年1月、埼玉県熊谷市のショッピングセンターに、3歳の男児が置き去りにされた。男児は、静岡県で母親(25)と父親の3人暮らし。だが、母親は3カ月前に、インターネットで男と知り合い、家出。「子供の面倒を見たくなかった」とショッピングセンターに男児を残し、姿を消した。
同年12月には、埼玉県和光市内のアパートの火災現場から、2歳の男児が焼死体で見つかった。母親(24)は、早朝から友人とスノーボードにでかけ留守。男児は1人で自宅に残されていた-。
似たようなことは以前からあった。たとえば夏場に親が乳幼児を車内に放置したままパチンコにふけり、乳幼児を熱中症で死亡させてしまうような事故。とはいえ、その身勝手さの度合いは増しているように思える。時代を反映して、最近では託児所を設けるパチンコ店も現れたのだが…。
「がまんするのは精神衛生上よくない」「楽しめるときに楽しもう」と言ってもらえると、気が楽だ。だが、それは容易に「好きなことだけする」「いやなこと、面倒なことはしない」に転換する。
教育現場や心理カウンセリングの現場では「自分を大切にする人は、ほかの人も大切にできる」といわれる。本当にそうなのか。最近、この言葉が、どうにも気になって仕方がない。(村島有紀)
《メモ》 スピリチュアルブームの一方で、国民生活センターには開運商法に関する相談・苦情が急増。平成12年度の1265件から18年度は3058件と、6年で2倍以上になっている。70代の高齢者と並んで被害が多いのが30代の女性。「インターネットでスピリチュアルカウンセラーに相談したところ、病気が治るといわれて40万円で神棚を購入したが治らない」(関東地方の30代女性)▽「スピリチュアル関連のセミナーに行って、除霊をして“気”を高めるシールを購入したが効果がなかった」(東海地方の30代女性)などの相談が寄せられている。
採用後、すぐに辞めてしまう教員が少なくない。大阪府の場合、1年以内に退職した教員(死亡、免職含む)は平成15年度が11人で採用者数の0・86%、16年度19人(1・38%)▽17年度21人(1・13%)▽18年度28人(1・56%)-と、少しずつだが増えている。目立つのは、保護者対応などに悩んで鬱病(うつびょう)などの精神性疾患にかかったケースを除くと、現実と理想のギャップを克服できずに教壇を去るケースだという。
あるベテラン教員はこう指摘する。「現実と理想が違ったとき、多くの人は現実を理想に近づける努力をします。ところが最近は、現実に目をつむって自分を正当化してしまう人がいる」
「自分が主役」。そんな考え方から抜けきれず、社会に出て戸惑う若者が増えている。
こんな例もある。「完全週休2日制」を掲げた企業に就職した女性は、入社してすぐに「だまされた」と怒り出した。週2日の休日は確かにあった。しかし、いずれも平日だったのだ。女性は「週休2日=土、日の休み」と思いこんでいて、そういう生活を頭に描いていた。就職したのは、土日が稼ぎ時のブライダル業界の会社だったが、入社前に休日について確認することもなかった。
「単に情報不足と社会常識がないだけですが、自分のことを棚に上げて『話が違う』『だまされた』と怒る若者が増えている」
「お互い様の面もあり、かつてなら新入社員にも『まあ、会社なんてこんなもの』と我慢する抑止力が働いたものだが…」
それが今は、自分が納得できないことは「許せない」となり、「即、辞める」というケースも目につくという。
教授が指導するその大学院生は、いつまでもあいさつに来なかった。そこで「常識がない」と叱責(しっせき)すると、その院生は「常識はある」と猛烈にかみつき、「あいさつに行かなければいけないことはわかっていたけど、行きたくなかっただけだ」と強弁した。
「あいさつが必要だと理解しているから、常識はあるということらしい」。白井教授も苦笑せざるを得なかった。
自分がどう思うかが基準であり、他者からの客観的な視点はすっぽり抜け落ちている。「そんな若者は『常識がない』というより、大人とは『常識が違う』と考えた方がいいのでしょう」
バブル崩壊後は企業に余裕がなくなり、研修期間の短縮など、人材育成にかける手間や費用は激減している。にもかかわらず、企業は新入社員に従来と同レベルか、それ以上に高度な質、量の仕事をこなすよう求める。「ソフトランディングさせず、いきなり厳しい現実に放り込んでも、適応するのは難しい」
社会の意識も様変わりした。「今や、親も簡単に『嫌やったら辞めたらいい』という時代。『すぐに辞める』『常識知らず』と若者を非難する前に、世間というものを知る手立てを大人社会は若者に与えてこなかった」。本人、企業、社会の責任は同等だというのが、神瀬さんの見方だ。
「いまの大人たちは果たして聖人君子なのか。人間は自分も含めて自己中心的な生き物と思う方がいい。若者だけを批判するのは、そう考えられない大人の傲慢(ごうまん)さ、余裕を失った社会の表れともいえます」
《メモ》 厚生労働省の調査によると、中学、高校、大学を卒業した後、3年以内に離職する割合は、それぞれ約7割、5割、3割で推移しており、いわゆる「七五三」といわれる現象がある。また、財団法人社会経済生産性本部が今年度の新入社員を対象に「働くことの意識」について調査したところ、「職場でどんなときに一番生きがいを感じるか」との設問で、最も多かったのが「仕事がおもしろいと感じるとき」(24.3%)、続いて「自分の仕事を達成したとき」(23.3%)▽「自分が進歩向上していると感じるとき」(19.1%)▽「自分の仕事が重要だと認められたとき」(12.2%)-などがあげられており、「自分中心の充実感」というキーワードが浮かんでくる。
平成13年、東京都と埼玉県の小学校4~6年の児童約1100人を対象にした調査では、女子の約69%が「今よりやせたい」と回答。その理由として「見た目がいいから」と答えた女子は82%に上った。この傾向は男子にもみられ、男子でも41%が自分を「太っている」と思い、45%がやせたいと回答。女子の4割にはダイエット経験があり、その方法として甘いものや油の制限、運動のほか「おなかいっぱい食べない」と答えた子は26%に達した。
やせ願望とダイエット志向が中高生から小学生へと低年齢化する現状について、深谷さんは「メディアで流される細身=美という大人の価値観をすり込まれている可能性がある。特に成績や友人関係に漠然とした不満をもつ子は自分を変えたいという願望があり、やせることですぐにでも新しい自分になれる、素晴らしい人生が開けるという期待もある」と分析する。
「ダイエットの本を読むだけで幸せな気分になる。今の私は仮の姿。スレンダーでキレイな”本当の自分”を見たいからやめられない」と楽しそうに語る。
初めての減量経験は高校1年。当時流行した卵だけを大量に食べる減量を続けていたら、じんましんができた。大学時代は、同じ研究室の友人3人が過度な減量で生理が止まった。昨年大流行した、軍隊式訓練でやせるという「ビリーズ・ブートキャンプ」は1日で挫折した。それでも話題の方法があれば試したくなる。
この女性のように、「やせなければ」「自分の体形をなんとかしなければ」と強迫観念のように思い込む人は珍しくない。
「現代の日本人にとってダイエットは、年齢、性別を超えた国民的関心事で、生活の一部になっている。特に若い女性には毎日の単調な生活に目標やアクセントを与えてくれるイベントともいえる」
『ダイエットがやめられない』(新潮社)の著者で、10年間にわたり雑誌の特集にかかわってきた片野ゆかさんはこう指摘する。最近は生活習慣病やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)対策への関心が高まり、日本人の「やせ願望」は中高年男性から高齢者にも広がっているという。事実、以前ならほめ言葉とされていた『恰幅がよい』『貫禄がある』といった表現を使う人は少なくなっている。
過剰なまでの「やせ願望」を反映して、この20年で日本女性の体格はどんどんスリム化した。
片野さんは「男も女もいまや中身より外見で評価される時代。海外に比べてやせ願望が極端に高いのは、かわいらしさや若々しさに価値観を置く日本独特の文化の表れでは」と話す。
「いつまでも自分の理想のきゃしゃな姿でいてほしい」という身勝手な気持ちから、娘が中学の運動部に入るのを強硬に反対した父親もいるという。
見た目優先主義とエスカレートする健康志向のなか、将来の世代を産み育てる若い女性ばかりでなく、子供にまでやせ願望が浸透する日本。海外では、やせ過ぎのファッションモデルが若者のダイエットを助長するとして、ショーへの出演を規制する議論が高まったが、国内ではこうした動きは見られない。
深谷さんは「細身=美という大人が勝手に作り上げたイメージを押しつけられ、その基準に当てはまらない自分に焦燥感を抱く子供は少なくない。ただでさえ、今の子供は昔に比べて食欲が落ちている。社会の過度な痩身志向に歯止めをかけなければ、成長期の子供たちの心と体をゆがめてしまう」と警鐘を鳴らしている。
疲弊する医療現場
ダイエット志向
すぐ辞める若者
衝突避ける家庭
身勝手な飼い主
“自子中心”の保護者
キレる大人たち 増え続ける“暴走”
以上をミーイズム=自己中心主義でまとめている。
豊かな社会、そこそこ食べていける社会、
社会や役所に文句を付けていれば何となく自分を正当化できるように思う社会、
それをマスコミが後押しする社会、
しかしマスコミはすぐに飽きてしまう。
自己実現の目標が本格的に達成されることはなく、
わがままを合理化して、他罰的になり、そこで成長が止まってしまう。
現実を変えないし、自分を変えない。
何も変えないままで、やめる、退却する、閉じこもる、手軽な空想的な打開策に走る、
そこで成長が止まる。
なぜだろう。
成長が止まるということは、そこでエネルギーがきれているということだ。
仕事で忙しいのかもしれないし、
もともとエネルギーレベルが低かったのかもしれない。
あるいは、エネルギーがあっても、間違った方向に延びているのだろう。
他罰的で非共感的で、それゆえ自分は損をして、結果として被害的になる。
被害的になるとさらに他罰的で非共感的になる。
そこで悪循環が生じる。
心理学の領域は相変わらず水力学モデルでちょうどいいらしい。