睡眠導入剤あれこれ 2008-3-31
ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤を頓用として処方するのは問題があるのでしょうか?
服用したりしなかったりの繰り返しは、反跳性不眠、服用時の健忘やふらつき、持ち越し作用などの有害事象も招きやすくなります。
また、「眠れないときだけ飲んでください」という指示は、患者さんに服薬するか否かの判断という要らぬ緊張・心配を引き起こし不眠を悪化させますし、「危険な薬なのでなるべく飲まない方がよいのだ」と睡眠薬に対する恐怖感を植えつけてしまう可能性もあります。
確実に眠れる高用量の頓服ではなく、低用量を毎日服用していただくことが、睡眠薬の適切な使用法であることをご理解いただきたいと思います。
躁うつ病の患者さんに睡眠薬を処方しています。お昼になると眠気を催すようですが、薬の影響でしょうか?
躁うつ病の場合は、うつ状態のときに過剰な眠気を催すことがあります。したがって躁うつ病患者さんが日中の眠気を訴える場合は、疾患特有の病相であるのか、睡眠薬や眠気を催す抗うつ薬が効き過ぎているのかを鑑別する必要があります。より作用時間が短い睡眠薬や眠気の出現しにくい抗うつ薬に切り替えるなどして、眠気の変化がないようであればうつ状態に原因があると考えられます。
臥床していても、実際に眠っているわけではなく、うつ症状の悪化のため、離床すらできない場合もあります。本当に眠っているのかどうかを確認して、うつ症状の増悪を見逃さないようにすることも大変重要です。
患者さんはどのようなときに、ふらついていると感じるのでしょうか?
睡眠薬の服用後に中途覚醒した際、十分覚醒していない場合に、ふらつきを感じることがあり、その原因としては、眠気による運動機能と姿勢制御能の低下が考えられます。これは、睡眠薬の筋弛緩作用や持ち越し作用によるもので、特に作用時間の長いタイプの睡眠薬で起こりやすい傾向にあります。
夜勤明けにスムーズな睡眠を得るための生活指導のポイントについて教えてください。
まず、食事は、体内時計に多大な影響を与えるため、3度の食事を決められた時間に摂取する習慣を守ることが重要です。特に帰宅後に食事を摂る場合には満腹にならないように軽めの食事を心がけ、起床後にしっかり食事を摂ることを基本にします。また入浴の際は、体温を上げるような熱い湯は避け、ほどよい温度のシャワー浴などで体にあまり刺激を与えずに就寝することがポイントです。
また、アルコールは入眠効果がみられる反面、利尿効果もあるため、中途覚醒や早朝覚醒の原因にもなります。さらに睡眠の質そのものを悪化させ、摂取量が増えると耐性を形成しやすく、肝疾患など内科的な疾患の原因にもなるので、睡眠薬がわりの寝酒は避けるように指導する必要があります。
睡眠薬の離脱を開始する際に注意すべき点は何ですか?
睡眠導入薬の長期使用者が服用を突然中止すると、反跳性不眠と呼ばれる不眠症状の増悪や、不安、焦燥感、頭痛、せん妄、振戦、痙攣などの退薬症状を来たすことがあります。半減期の短い睡眠薬ほどおこりやすいので注意が必要です。したがって睡眠薬の減量と中止は医師の適切な指示のもとで行い、決して自己判断で中止しないように指導しましょう。
離脱の過程では、あせらずじっくり時間をかけて睡眠薬の減量を行うことが大切です。また、薬の用量の変化による病状の急激な変化も考えられるため、1~2週間に1度は受診していただき、しっかり経過を観察しながら減量を進める必要があります。
重度の不眠症ではないので、市販の睡眠改善薬を勧めてもよいものでしょうか?
OTCの睡眠改善薬は抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン)が中心であり、医療機関で処方される睡眠薬とは基本的に異なる薬剤であることをまず認識すべきです。
抗ヒスタミン剤は催眠作用がありますが、耐性が出現しやすく、連用すると効かなくなります。ですから添付文書にも、不眠症と診断された患者さんは服用しないようにと書かれています。したがって、睡眠薬を週2~3回以上使用する必要がある患者さんには、OTCではなく医療用の睡眠薬を選択すべきです。
特に高齢者は、抗ヒスタミン剤により緑内障発作や尿閉など重篤な副作用が誘発されやすいので、OTCは勧められません。
睡眠薬を飲むと呆けるというのは本当ですか? 高齢者のかなには「睡眠薬を飲むと呆ける」と心配されている患者さんがいらっしゃいます。アルコールと併用した場合には健忘といわれる記憶障害などの副作用を生じるといわれておりますが、アルツハイマー病や認知症などの呆けとは異なるものであり、あくまで一過性のものです。現在主流となっているベンゾジアゼピン系睡眠導入剤は従来のバルビツール系薬剤と比較しても安全性が高い薬剤といえます。患者さんに対して睡眠導入剤の正しい使い方を指導していくことが不眠症治療にとって重要です。
睡眠薬の大量服用をした患者さんとのコミュニケーションで、何か気をつけることがありますか?
まず、大量服用したと連絡してきた場合、電話での指示は非常に危険を伴うので、絶対に避けなければなりません。また患者さんの意識状態も含め、電話口での情報はきわめて不正確なので、必ず受診してもらい、できれば一刻も早くご家族や同居者も一緒に来院していただいて、直接情報収集することが推奨されます。
また治療が無事終了したあとは、大量服用した背景を上手に聞き出し、状況によっては精神科医を紹介することも考慮します。
ヒトの最適な睡眠時間はどれくらいなのでしょう? ヒトの睡眠時間は5時間未満から10時間以上と個人差があり、例え睡眠時間が短くても目立った心身の不調がなく、朝心地よく目覚め、日中過度な眠気がなければ、眠りは足りていると考えて差し支えありません。また睡眠時間は、年齢とともに変化します。新生児は1日17~18時間も眠りますが、健康な人でも加齢によって6時間程度まで短くなります。不眠が原因で死ぬことはないことがこれまでの研究でも確認されています。したがって睡眠時間は、あまりこだわらない方が良いといえます。
睡眠衛生の維持に、ときには睡眠導入剤の一時的使用も考える場合もあると思われます。その際、どのような注意が必要ですか?
現在もっとも多く使われている睡眠導入剤は、安全性の高いベンゾジアゼピン系(ベンゾジアゼピン受容体に作用する非ベンゾジアゼピン系薬剤を含む)です。これら薬剤の効果は自然でマイルドであるため、服用したその日から必ずぐっすり眠れるわけではありません。使用し始めてから1-2週間程度は様子を見て、その間に以前よりよく眠れた日が増えていれば、薬の効果があったと判断します。むやみに服用量を増やさないことが重要です。