躁とうつについての再検討2008

躁とうつについての再検討2008 *一般向けではない項目です

躁状態とうつ状態は「反対のもの」と考えるのが、
日本語の言語使用に当たっての常識だと思います。

その常識に従えば、
垂直な線を引いて、ゼロ点を定め、
それよりも上ならば、躁状態、下ならば、うつ状態と表現できるはずです。

「前駆期・極期・回復期」の図は、そのような常識に従って、描かれています。

こうした思考の延長として、
躁状態では「何かが過剰」であり、
うつ状態では「何かが欠如」している、
との考え方が出てきます。
ここ数年の趨勢では、「何か」はセロトニンのことだろうと
思う人もいるでしょう。

そのように考えをすすめていくと、
常識の訂正が必要になります。

日本語の自然な常識として、
元気がない傾向をうつ状態、元気がありすぎる傾向を躁状態とするのはいいのですが、
精神状態を医学的に観察して記述する用語として、
そうとうつを使う場合には、数直線のプラス側とマイナス側にそれぞれを置いてしまうのは、
適切ではありません。

実は、そうとうつは同時に起こることがあります。
どういうことかといえば、
まず、人間の心身の状態を記述する要素として、
覚醒程度、意欲、認知機能、気分、睡眠、食欲、などなど細分化して調べます。
多くの場合は、うつ状態としてセットが作られ、一方では躁状態としてセットがつくられます。
ところが、詳細に検討すると、
部分的にうつ状態であるが、他の部分では躁状態という場合があります。
「躁うつ混合状態」として、最初はドイツ語で記載された状態です。
つまり、躁とうつは反対の状態ではないのです。

人間の全体を表現する言葉としての、つまり、セットとしての躁状態、うつ状態という言葉と、
機能の各要素の状態を表現する言葉の、躁状態、うつ状態という言葉とを、
まず分離させたいのです。

躁とうつは、ある程度は、相反する状態ではあるが、ときには並存する状態である、
そのことを前提として考えなければなりません。
さらに、実際の臨床場面では、
躁、うつの軸とは独立させて、不安、焦燥を観察する必要があります。
個人的には、気分障害を、「躁うつの対立する二軸でみる」方式ではなく、
「躁、うつ、不安、焦燥という、互いに緩やかに関連はするが、ときに独立する四軸でみる」方式に賛成です。
横軸を時間にして、縦軸を、四つの要素のそれぞれの「強度」として、
四本の曲線を描くことができます。
従来の、モノポーラー、バイポーラーという呼び方ではなく、
テトラポーラー・ディスオーダーとしてとらえたいわけです。

すると、治療としては、
うつ軸の安定のためにSSRI、SNRI、
躁軸の安定のために、SDA、Li、VPA、
不安軸の安定のために、BDZ、SDA、
焦燥軸の安定のために、SDA、BDZ、
これらそれぞれの薬剤は、相反する効果を示すこともあります。
たとえば、従来、薬剤による躁転として記述されていたものがそうですし、
最近の、SSRIによるactivationもその例と思われます。
ある軸を安定させる薬が、別の軸の不安定を招いているのです。
調節しながら、サンドイッチのようにして、上と下から挟み込みながら、四要素を安定させていきます。

もちろん、単一薬剤で四軸がそろって安定するなら、一番いいのです。
そのような薬剤が見つかったときにはじめて、
原因についても、推定することが可能になります。

こんな少数意見は立派なサイトでは書けませんから、
こうした集合的個人サイトの役割ともいえるでしょう。

しかし、これまでの臨床経験を否定するものではないですし、
現在の標準的治療アルゴリズムを否定するものでもありません。

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