強迫性障害についてのkonモデル的解釈 2008
「侵入思考」というのは、ある事態に遭遇した際に誰でも抱きうる一過性の心配を言います。たとえば、外出してから「確かに鍵を閉めた、ガスの元栓を閉めたと思うけれど、どうだったかな?」と心配になるとか、公衆トイレを使う際に「ここを使って、汚れはしないかな?」と感じたりすることは、誰でも思い当たるところがあるでしょう。普通はこの種の心配にとらわれず受け流すことができますが、強迫性障害の患者さんは「侵入思考」を「過大評価」しがちです。「過大評価」によって強い不安が生じて、それを和らげるために強迫行為をしますが、それが病態を悪くします。強迫行為をしないと安心できなくなりますし、強迫行為をすることで「過大評価」がいっそう強まってしまうからです。
実際にこの図を臨床の場で使用してみますと、「侵入思考」と「過大評価」という二つの術語が入ることで心理教育が行いやすくなると感じています。(原田先生より引用)
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以上が最近の典型的な強迫性障害についてのモデルである。
kon-modelでいえば次のようになる。
・強迫性障害は、自動機械部分の間違った・強い学習の結果である。自意識は世界モデルとして壊れていない。従って精神療法というよりは行動療法の領域である。
・強迫性障害は、微妙に種類があって、行為や思考の自己所属性が保たれていることは条件であるが、その行為や思考に対して明らかに違和感を抱いているものから、多少の慣れもあるのか親和性を感じているものまである。定義によれば、違和感を抱いているのであるが、実際に自分が行ったり考えたりしているものでもあり、多少の妥協はして、違和感は薄らいでいくのかもしれない。しかし最初の標識は、ばかばかしいと思っているのにやめられないということであり、違和感を感じながら、やめられないということである。これを不安がまず先にあって、それを解消するための儀式と考えれば、上の説が正しいし、実際治療はそのように進められるので、正しいのだと思う。
・自己所属感が保たれていて、かつ、行為と思考に関しての違和感があるということはこのモデルでよく理解できる。
・違和感を感じるということと、不安を感じるということは、実は両立しないのではないかと私は考える。違和感を感じること、それが訂正できないこと、制御不能の感覚の結果としての不安ならばよく分かる。
・ここで、不安が先にあるのではなく、間違った学習が世界モデル1=自動機械で起こってしまい、世界モデル2=自意識はそのことに気付いていながら、訂正できないとする。不安感は、その行為に引きずられたものと考える。
・たとえば重症の例として、高速道路を走っていて、誰かをひき殺してしまったかもしれないと思い、引き返しては確認し、また行こうとするが引き返して確認し、一日をそれで費やすという、ラパポートが書いている例で説明すると、全ての行為は世界モデル1=自動機械の行っていることで、世界モデル2=自意識はただそれを見ているだけである。普通ならば、自意識が自動機械に干渉して、自動機械を訂正できるのだけれど、この場合はそれができない。すると、自分をコントロールできないという不安が生じる。そして、自動機械はやはり不安に従って確認行為をしているのだから、自律神経系は、汗をかいたり、ドキドキしたりしている。そのことを内部でモニターしていると、自分はいま不安を感じているのだと分かる。その不安が複合して強い不安感になる。結局こうして時間に遅れてしまうということも不安感につながる。
・制御不能の感覚、自律神経系の反応、結果の不都合、これらが不安を形成する。
・不安だから強迫行為をしているのであれば、不安をコントロールすればよいのだが、抗不安薬をたくさん使っても、行為は止まらない。不安感は薄くなるが行為は止まらない。ブロマゼパムの効果は昔から言われているが、他のベンゾジアゼピンとどう違うのかよく分からない。そして一方の三環系抗うつ剤・クロミプラミンがなぜ効くのか、いまだに謎である。
・私見では、アナフラニールは、自動機械が再学習するための条件を整えるのだと思う。アナフラニールを使った状態で、自動機械=世界モデル1を訂正できるように認知行動療法を行えばいいのだし、認知行動療法がなくても、アナフラニールを使った状態であれば、自意識が干渉して、訂正が進行するかもしれない。実際そのようで、薬を使っているだけでうまく行くこともある。あるいは自意識の干渉さえも必要なく、自動機械は外界を再学習するのかもしれない。
・自動機械=世界モデル1を訂正するには行動療法、自意識=世界モデル2を訂正するには認知療法とも考えるが、モデルによればそうなるというだけで、実証的な材料はない。
・再学習を容易にする薬剤として、ほかには女性ホルモン、ステロイドホルモン、甲状腺ホルモンなどが考えられ、甲状腺刺激ホルモンや、さらにその刺激ホルモンも考えられるが報告を調査していない。第一、副作用が出るので実際の臨床には使えないと思う。視床下部、辺縁系、といったあたりである。
・侵入思考に対して「まあ大丈夫だろう」と考えるというプロセスは、翻訳すれば、自動機械の始めている強迫性行為に対して、自意識が制御をかけている状態である。その制御ができなくなっているとき、強迫性障害になる。
・以上の考え方はひとつの考え方として提示しているだけで、患者さんの治療には影響のないようにしたい。標準的な治療プロトコールを守るべきである。このモデルで考えても、治療法は同じである。